去年の10月18日、実家に帰った際に聴いた坂本龍一さんの「千のナイフ」から「左うでの夢」についての文章を上げました。今回はその続きで「左うでの夢」の後にリリースされたミニ・アルバム「ジ・アレンジメント」(‘82年) から、「未来派野郎」(‘86年) までについて書きます。
そう思って、手元のレコードを何気なく引っ張り出したら、あまりのリリース音源の多さに今更ながら驚きました。加えて、YMOや他のアーティストとの共演・アレンジ等も行っています。そして俳優として「戦メリ」撮影も。
という訳で、先ず今回はロビン・スコットとの共作ミニ・アルバム「ジ・アレンジメント」(‘82年)。
前年リリースの「左うでの夢」からの数曲をベースにしたトラックに「M」ことロビン・スコットさんのボーカルが乗った、ポップで聴きやすいミニ・アルバムです。
どなたが書いたのかは憶えていませんが、「坂本龍一の楽曲は『バックトラック』(伴奏) っぽい」という文章を読んだ事があります。私もそう感じます。印象的なメロディの、あの「戦メリ」でさえ、デヴィッド・シルヴィアンの歌メロが乗ると、見事に歌の伴奏と化しています。つまり、主メロディは極力シンプルで、楽曲の最後のワンピースを聴き手のイマジネーションに委ねた、ような曲が多いという事です。
このミニ・アルバム「ジ・アレンジメント」は、坂本さんのアルバムの中でも特にバック・トラックっぽい曲が多いアルバム「左うでの夢」の楽曲がベースです。坂本トラックの最後のワンピースをロビン・スコットさんの個性が描いた、そんな趣きがあり、だからこそこのような異色のポップスが生まれたのだと感じます。
当時高校生だった私は「B-2 ユニット」と「左うでの夢」は、正直言ってちゃんと消化しきれないアルバムでした。しかし「ジ・アレンジメント」がすんなりと入ってきたのは、そんな理由からではないかと、今思います。
その中でも特に1曲目「ザ・レフト・バンク」が、1番のお気に入りでよく聴いていました。この曲はアルバム「左うでの夢」の「ヴェネツィア」に、オリジナルの歌メロを乗せています。「ヴェネツィア」は、まさに「戦メリ」前夜に生まれたような、ロマン溢れる隠れた名曲です。この曲に乗るロビン・スコットの歌は、さながら「戦メリ」に乗るデヴィッド・シルヴィアンの歌メロのようで、坂本ロマンティシズムを更に増幅しています。
今もこの文章を書きながら聴いていますが、そのメロディは全く古びる事なく響きます。
レコーディング途中で2人は方向性の違いから袂を分かつ事になり、制作はミニ・アルバムにとどまりましたが、この路線でのフル・アルバム、是非聴いてみたかったものです。
すっかり長くなってしまいました。続きはまた別の機会に。
「実家で坂本龍一の初期アルバムを聴く」 はこちら↓から。
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