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【2017年10月29日】前回の続き 〜 文化の継承は受け手側次第ーー宮﨑作品に思う

アニメは音楽と違って一人で行える表現形態ではないので、宮﨑作品もスタジオジブリでの作業を通じて世に出てくる訳です。
こうした共同作業を経て作品が完成するので、宮﨑駿監督の世界観は、本人がタッチしなくなっても (引退しても) 、それなりに受け継がれていきそうですが、実際はそんな単純な話ではないと思います。
なぜなら、同じような世界観の作品は出来るかもしれませんが、同じように多くのオーディエンスが支持するかどうか、は全く別の次元の問題だからです。支持されてこそ、継承と言えるので。

 

 

例えば、「水戸黄門」の黄門様や助さん・角さんの役者が変わったところで、話題にはなりますが、過去に視聴率が大きく変わったかと言えば、そんな事はありません。あの世界観さえ再現されていれば、演じる人はそれなりに演じる事が出来る人ならば、ファンはそれが誰でも差支えないのでしょう。

 

ところが、宮﨑作品はそうではありません。宮﨑駿という個人の思想・感性がはっきりとあらわれている映画なので、似たようなのは作れそうですが、宮﨑ファンは果たしてついてくるかどうか分かりません。歌舞伎や落語、クラシック音楽の世界と違って、「個人」の表現というのは、そのままの形での伝承というのがとても難しいと感じます。

 

 

という事は、優れた個的な表現は、歌舞伎や落語・クラシック音楽のように、ちゃんと伝承されずに終わっていくのかというと、そんな事はありません。

 

 

 

宮﨑駿監督は、手塚治虫さんの大ファンだったそうです。確かに、初期の「ナウシカ」など、手塚治虫さんの影響が強いなあと思います。しかし、作品を重ねるごとに、宮﨑色が濃くなっていき、質を高めながら一般的にも受け入れられていきます。こういう事こそが、文化の継承なのではないかと。
そのままの形を継承するのも文化なら、先人の影響を受けながら未知の世界を切り開いていくのも、文化の継承ではないかと感じます。

 

 

ロックの世界の継承も同じです。あるアーティストの表現の熱心なオーディエンスだけが、その表現の継承者です。
宮﨑作品に大きな影響を受けた、だけど全く似ていない、そんなスタジオジブリ作品を今後期待します。

 

 

「風立ちぬ」より。

【2017年10月28日】宮﨑駿監督、新作タイトルは「君たちはどう生きるか」

 

 

つい先程、朝日新聞デジタル版で宮﨑駿監督の新作タイトルが決まったニュースを読みました。
「君たちはどう生きるか」です。何のてらいもないストレートなタイトルです。1937年に吉野源三郎が発表した名著から取ったそうです。

この吉野源三郎という方、私は知らなくてウィキペディアで調べたところ、反戦の人で、人間の尊厳を第一に考えていた人のようです。ウィキペディアをちょっと読んだだけで、宮﨑駿監督らしいなあと思いました。
宮﨑監督は多分、1作1作をこれで最後だと思って作っているのでしょう。(だから何度も引退宣言をする。) そして今回のこの作品も、タイトルからしてそう感じます。

 
私はアニメは殆ど観ませんが、宮﨑作品は数本観ています。特に熱心に観たのは、初期の頃のばかりですが、「未来少年コナン」「ルパン三世 カリオストロの城」「風の谷のナウシカ」「となりのトトロ」…。ルパンは娯楽作品ですが、あとのは宮﨑監督の思想 (エコロジストとして有名) が濃く反映された作品ばかりです。
一番印象に残っているのは「風の谷のナウシカ」ですね。TVで何度も何度も再放送されて、その度に観ていました。「トトロ」もそうですが、宮﨑作品の再放送は安定して視聴率がいいそうです。なんか分かります。

 
実際の話、核汚染で、福島県の一部には今でも人の住めない土地があります。まさに「ナウシカ」の世界に、既に現代は突入している訳です。今の時代だからこそ、必要とされている人の一人ではないかと思います。
どの作品も別段教訓じみてはいませんが、観終わると、映像のカタルシスと同時に、生きていくうえで何か重要なことを教えられた気分にもなります。

 
宮﨑監督の映画はそういう意味でも、もっともっと多くの人々に、子どもたちに、観てほしいと思います。

 

 

 

 

「風の谷のナウシカ」より。