トロ・イ・モアは、チャス・ベアーさんの1人プロジェクト。日本でいえば、小山田圭吾さんのコーネリアスみたいな感じでしょうか。アルバムごとのコンセプトが明確で、その曲想に合わせてゲスト・ミュージシャンをチョイスしたり、というところも似ています。
元々、10年ほど前にチルウェイヴというジャンルのアーティストとしてデビューしています。
同時期のチルウェイヴのアーティスト、ウォッシュト・アウトと比較すると、音数が圧倒的に少なくスカスカしていますが、少ない音をうまく聴かせるサウンド・デザインが見事です。そしてブラック・ミュージック寄りです。そんなところが、トロ・イ・モアの個性でしょうか。
ここ数作のアルバムでは、音像が派手になってきてポップ度が大きく増してきていましたが、この「ポストマン」、初期のチープでスカスカ感を感じる音像です。そしてベースの音がとても良いです。ファンキーなのですが、ちゃんとトロ・イ・モアのサウンドとして鳴っています。ローファイ・ファンク・チル、という感じでしょうか。こういうのが聴きたかったんだよなあと、何度もリピートしています。
ところでここ日本では、こういうスカスカなサウンドは昔から受け入れられ難かったんですが、近年、サブスクやYouTubeでいろんな音楽をじっくりと聴き込む方が増えてきた事もあってか、昔ほど音圧主義はなくなってきている気がします。
それは、高性能のヘッドフォン・イアフォンやPC・スマホの普及により、昔なら数10万円かけて整えたリスニング環境が、今はちゃんと鳴るのが当たり前、というふうに、劇的に変わったというのも一因ではないかと推測します。
アーティストは音圧に頼らなくてもよくなった訳です。繊細なサウンドも、普通に一般リスナーに聴いていただける。そんなふうに変わってきました。
リスナーの耳が繊細な音響についてくるようになってきているので、このトロ・イ・モアのように、サウンド・デザインのセンスで聴かせるアーティストにとっては、状況は追い風が吹いているのではと感じます。もっと多くの音楽ファンの方々に聴いていただきたいなあと思います。
「ポストマン」MVより。