ようやくあと2枚まで辿り着きました。プリンスとビースティ・ボーイズです。欧米のポップ・ミュージック・シーン表舞台は、この辺から今のヒップホップ隆盛時代に続いています。
私のレコード棚を見ても、’85年以降のレコードはほぼブラック・ミュージック (含ヒップホップ) ばかりになってきています。
「ライセンス・トゥ・イル」ーー ヒップホップは、まさに衝撃的な音楽スタイルでした。何しろ、楽器が弾けなくてもリズムマシンとターンテーブルとマイクロフォンがあれば、誰でも出来るのですから。パンク以上に直接性のあるこの音楽に、当時の最先端の音楽好きリスナーは痺れたものです。そして「これならオレにも出来る」と思って演りはじめた方が世界中にいたのではないかと推測します。
ヒップホップのルーツは、レゲエのDJと呼ばれるスタイルから来ていると思われます。これは’70年代の終わり頃から、レゲエのカラオケの低音を強調・エコーをたっぷりかけたトラックの上に、DJが時事ネタや下ネタ等を自由にトゥイストする、というものです。そのトラック自体も、ダブとして独立して聴かれています。
当時の私はレゲエ/ダブとヒップホップを並行して聴いていました。爆音で鳴らすと、ロックとはまた違った解放感を得る事が出来ました。文学的?に云えば、パンクやハードなロックに瞬間 (刹那) を、レゲエ/ダブに永遠を、それぞれ感じ、ヒップホップにはその両方を感じていました。
そしてこの企画です。アフリカ・バンバータ、ランDMC、グランドマスター・フラッシュ、そしてビースティ・ボーイズと迷った挙句、結局これにしました。このレコードは、それまで別々に進んでいたロック・シーンとヒップホップ・シーンが地続きになった記念すべきアルバムだと思ったからです。
地続きと言えば、ランDMCがエアロスミスを、ビースティ・ボーイズがレッド・ツェッペリンをそれぞれサンプリングネタにしていて、当時「終わっている」と揶揄されていたオールド・ロックが、意外な形で蘇ったのも面白い現象でした。
「サイン・オブ・ザ・タイムズ」ーー ‘80年代のレコードをいろいろと聴いてきたのですが、これが真打ちに思えます。アタマ2つぐらい抜けてるなあと感じました。’80年代に於いて、プリンス及びプリンス&ザ・レボリューション名義のアルバムはたくさんリリースされていますが、どれもこれもクォリティが高く、この時代はプリンスの時代だったんだなあと、あらためて感じました。
そんな多くのプリンスのアルバムの中からこの「サイン・オブ〜」を選んだ理由として、それまでのコンセプチャルなアルバムから離れたバラエティー豊かな曲想と、ローファイ感・宅録感溢れる音像が、プリンスの個性を最良に表現しているのではと感じたからです。その中でもスカスカでデモテープのような音源が、アルバムのタイトル曲その他結構あって、それが今聴くと実に素晴らしく、作り込まれた音の多い曲のクォリティを遥かに凌駕して聴こえます。(以前は単に、音わるいなあと思っていた 笑)
私は長い間、それらの数曲はデモテープの音源をちょっと加工して使ったのではと思っていたのですが、数年前、本人死後にリリースされた「サイン・オブ・ザ・タイムズ・スーパー・デラックス・エディション」(未発表トラックが何と63曲!) を聴くと、そうではなかった事が分かり驚いたという事があります。
「ドロシー・パーカーのバラッド」には、ゴージャスでジャジーなホーンセクションが入っていたり、「フォーエバー・イン・マイ・ライフ」は普通にポップスのアレンジが施されています。それがアルバムでは、それらの音を全て抜いています。
つまり、音数が少なく音質を落としたのは、意図して行っていた、という訳です。ちゃんと完成させてから、そこからどんどん音を削っていったという訳です。そして、聴き比べると、やっぱり音質がわるくスカスカな正規バージョンの方が、明らかに出来が良い。私はここに音楽のマジックを感じました。
あと、プリンスが作った「造語」について。4U (for you)、2 (to)、R (are)、それから「サイン・オブ・ザ・タイムズ」の「of」は、正式にはO (オー) にピースマークが入っています。
それからこのアルバムでは、ボーカルの回転数を上げて「カミール」という別キャラクター (女性) を作って歌っています。
キックやスネアの音1音をとっても、あ、これはプリンスだ、と分かるぐらい、音の部品レベルまで自分で作っていた人です。言葉や声も同様、自分で好きなように加工して曲のイメージに近づけたかったのでしょう。
アウトキャストやディアンジェロその他、今世紀になってもプリンスの影響を受けたアーティストが多く、今更なんですが惜しい人を失くしたなあと。
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以上で、新春特別企画?「実家で’80年〜’87年の『名盤』を聴く」を終わります。お正月は仕事が休みで時間がタップリあるので、連続の長文を上げる事が出来ました。機会があったら、またこのような企画物を書いてみたいと思います。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
(追記) プリンスの記事から関連あるものを抜粋しました、よかったらご覧下さい。
「オールディーズ」、トラック出来ました!・:*+.\(( °ω° ))/.:+ 〜 プリンス&ザ・レヴォリューション「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」を聴き返して
ベースの可能性は無限大 〜 プリンス&レヴォリューションのベースレス・サウンドを思い出す