【2019年8月5日】即興演奏とノイズ・ミュージックの可能性 〜 ディアン・ラブロッス、マルタン・テトロー、ハコ「ランチ・イン・ニシノミヤ」

前々回に紹介した「ランチ・イン・ニシノミヤ」について。

 

 

 

このアルバムは単純にジャケ買い+タイトル買いです。聴く前の予想では、ランチ時の雑音ーー食器の擦れる音、噛む音、周囲の雑音… そんな現実音を電子処理した、いわゆるミュージック・コンクレート的な音楽かなと。

聴いてみると、当たらずしも遠からずで、三人の即興演奏ミュージシャンが演奏した音 (というかノイズ) を電子処理したエレクトロニカでした。

 

 

… 3人が、破擦音、破裂音、接触音、振動音のような様々な 音(ノイズ)を、微細な息づかいとダイナミズム、緊張感となごやかさとともに絶妙のバランスで 配合し、作り上げた極めてデリケートなエレクトロアコースティック・サウンド。全8曲。

 

以上、CD説明文から引用。

 

 

 

ノイズ系の即興演奏と言うと、世にある音楽の中でも聴くのに最もハードルの高い音楽ジャンルの一つなのですが、そんな先入観なしでこのアルバムに耳を傾けると、これが実に心地良い音で、どこがノイズの即興演奏なんだ、とツッコミを入れたくなります。

 

 

たしかに、音のパーツ一つ一つは、不協のノイズで、演奏と言えるフレーズはありません。ところがこれらのノイズをPCで再構成する事によって、聴きやすい「音楽」に生まれ変わっています。今時のノイズ・ミュージックはこういうのもあるのかと、感心しました。このアルバムのリリースは、’05年。’00年前後に多くリリースされていたエレクトロニカの、その後の音です。

 

 

 

ノイズ・ミュージックの定義は「既存のルール (コード・メロディ・リズム) を使用せずに快音を追求する事」だと、私は考えます。「快音の追求」は、ノイズ・ミュージシャンの秋田昌美さんの言葉。

優れたノイズ・ミュージックは、大きな音で聴くととても優しく聴こえます。決して不快な音ではありません。ここが、一般的に誤解されているところではないかと。

 

 

このノイズ・ミュージックに多い即興演奏というのは、一種の音楽の博打です。意識下の何かを表現するのに、音を意識(認識)する前に出してしまえ、という方法論です。

博打なので、当たる(いい音が奏でる)時もあれば、外れる時もあります。今まで聴いてきた限りでは、「はずれ」が多いように思います。この辺も、ホンモノの博打に似てますね。

 

 

上記の勝手な定義からみると、このアルバム「ランチ〜」は、ちゃんと構成されていて、厳密には「ノイズ・ミュージック」ではありません。そして、博打的な音を出した後、それを意識でコントロールして再構成しているところが、現代的で面白いと感じました。

 

 

 

このアルバムのレーベルは「インプロヴァイズド・ミュージック・フロム・ジャパン」。直訳すると日本からの即興音楽。レーベルのHPを観たら、世界に向けて発信していて、それなりにカタログが揃っていて、何故か安心しました。

ポップ・ミュージック・シーンのメイン・ストリームには決して乗らないこういう音楽にも、耳を傾ける人々が世界中にいるという事です。