前回の続き。最後に「もしマイルスさんがこの後、このアプローチを発展させての曲を作っていたら、シーン (ジャズもヒップホップも) が大きく変わっていたんじゃないかと感じます。」と書いています。これについて、もう少し。
前回上げた「ドゥー・バップ」の数年前、「ユア・アンダー・アレスト」というアルバムを、マイルス・デイビスさんはリリースしています。’85年、ポップス全盛の時代です。
このアルバムでは、当時のヒット・ソングのカバー・ヴァージョンが聴けます。マイケル・ジャクソン「ヒューマン・ネイチャー」、シンディー・ローパー「タイム・アフター・タイム」の2曲です。
‘80年代の中頃といえば、ロックはパンク/ニュー・ウェイヴのムーブメントがすっかり落ち着き、MTVが台頭して、洋楽といえばポップス、の時代でした。「ヒューマン・ネイチャー」「タイム・アフター・タイム」は、そんな時代が産み落とした最高レベルのポップ・ソングです。
最高レベルと今だから言えるのですが、当時は全然そう思ってはいませんでした。単なるヒット曲として聴いていました。
ところが時を経て、いろんな人々のカバーも聴いたりして、気付くとこの2曲は、自分の中でも特別な楽曲になっています。
この2曲は、リマール「ネヴァー・エンディング・ストーリー」、TOTO「アフリカ」、それから大ヒットはしていませんが、エルヴィス・コステロ「アリソン」、ニュー・オーダー「ビザール・ラヴ・トライアングル」…共々、私の中での80’s・スタンダードとして、今でも車内などで時々聴いています。
つまり今となっては、一過性のヒット曲ではなく、時代の流れに耐えうる普遍性があるいうことです。
「ヒューマン・ネイチャー」「タイム・アフター・タイム」、私は30年経って、ようやくそう実感しているのですが、マイルスさんは早々に、アルバムに、更にはライブのメインの楽曲に取り上げています。つまり、この2曲は当時既に、永きにわたってスタンダード化するとの確信があったのでしょう。恐るべし慧眼です。
そういう訳で、ヒップホップに関わった最晩年の作品がとても興味深いのです。マイルスさんの、時代を・音楽を捉える慧眼が、ヒップホップに向けられているーー。そんなことを考えながら聴く「ドゥー・バップ」「ユア・アンダー・アレスト」の響きは、格別な何かを感じます。
30年後、私の楽曲はどう聴こえるんでしょうか?長生きして聴き返したいものです。↓ こちらから聴けます。